ドラマ陸王原作小説第16章あらすじネタバレ

坂本は宮沢に「会社を売らないか」と提案する。買収先はアメリカに本社があるアパレルメーカーで、アウトドア関係のブランドを展開している新興企業フェリックス。資本を受け入れて買収企業の傘下に入っても、社長としては続投するという形での買収もあると坂本に説得され、宮沢はとにかく御園社長と話をすることになった。
 安田やあけみさんたちは、今度の京浜国際マラソンで茂木を応援していいのか悩んでいた。陸王を提供するという意味でのサポートは継続できる見込みがない。それなのに応援に行くというのは、誤解を招かないか。茂木はおそらく陸王を履かない。それを覚悟の上なら応援に行ったらいいと、宮沢は答えるしかなかった。
 宮沢は坂本とフェリックス社長の御園との食事会に出向く。その席で、まず御園は自分がいったん挫折した人間だと自分の過去を話しはじめた。御園は大学卒業後、高級ブランドの会社に5年、転職してスーパーマーケットで3年働いている。流通の経験と知識、人脈を得て改めてブランドを扱う仕事をやりたい。いっそ自分で創業しようと考え、デザイナーの妻と二人で会社を立ち上げた。妻がデザインしたバッグを製造販売するジャニスという会社。その会社名はそのままブランド名であり、妻の名前でもあった。
ブランド戦略と流通のノウハウ、そしてマーケティング力によってジャニスの滑り出しは好調だった。しかし量産体制を整えだしたころ、妻が自分本来のデザインに変えたいと言いだした。新しいデザインは受け入れられず、試行錯誤をしている間に妻がハリケーンの被害にあって亡くなってしまう。すべてを失った御園に、ベンチャーキャピタリストの一人がもう一度やってみる気があるのなら資金を提供すると申し出た。投資会社は事業計画に投資するんじゃない、人に投資するのだと言われ、御園は再チャレンジすることにした。それで創業したのがフェリックスだ。
御園は、自分にはすべてを失った経験があり、絶望を知っていることが強みだと言う。フェリックスという社名は、妻の命を奪ったハリケーンの名前だった。運命に挑戦し、打ち負かしてやろうという怒りのようなものを掻き立ててくれる、原動力だという御園。宮沢には、そんな御園が常に過去と闘い、成功することでそれを否定しようとしているように見えた。フェリックスはこはぜ屋を買収することで、シルクレイの技術を利用したいと考えている。こはぜ屋にとっても、フェリックスの資金力、開発力はアトランティスに対抗するためにも役立つはずだという。
大地のほうは面接もうまくいき、こはぜ屋に素材を卸してもいいという会社も見つけていた。タテヤマ織物という中堅の織物業者で、技術力に定評がある。取引先の選別が厳しい優良企業で、宮沢は見込みがないと考えていた。しかし檜山和人という資材営業部長は、今のこはぜ屋の状況が分かったうえで、設備が完成して再生産のめどが立った時には素材を仕入れる件について具体的な条件を詰めよう、と前向きな話をしてくれた。大地は気がついていなかったが、その檜山というのはタテヤマ織物の創業家の一人だった。
 素材の件が落ち着いて、改めて会社の行く先をどうするか考える宮沢。敗北から這い上がる一手、フェリックスの傘下に入ることが果たしていいことなのか、宮沢は苦悩し続ける。

ドラマ陸王原作小説第16章感想考察

物語も終盤に差し掛かったところで、こはぜ屋に大きな転機が訪れようとしている。坂本に会社の買収を持ちかけられるのだけど、買収される側にとってのメリットってどういうものなんだろうと思ってしまった。どうしてもいいイメージが湧かない。
 宮沢も会社存続のためにはそれ以外考えつかないのに、なかなか買収に踏み切れない。それはなぜなのか。やっぱり、買収されるからにはすべてが今まで通りというわけにはいかないからだ。それに、創業100年ののれんも、新興企業の傘下に入ってしまえば重みがなくなってしまう。加えて、宮沢とフェリックスの社長、御園では人間のタイプが全然違う。考え方も仕事のやり方も、生きてきた人生も全く正反対と言っていいくらい。これでは同じ方向を向いて一緒に仕事をするというのは無理なんじゃないかと思う。そういう、人間関係も大きな要因なのではないか。
 こはぜ屋の後継ぎとして用意されたレールの上を走るだけだった宮沢。初めての冒険といえば今回の陸王開発だけだし、それも今のところ上手くいっていない。逆に御園のほうは大学在学中から留学を経験し、世界規模での仕事をしている。さらに一度すべてを失った経験からすさまじいほどの覚悟をもっていることも感じられる。自分の過去に負けてしまわないよう、常に前進し大きくなり続けようとする。それはこはぜ屋の仕事とは真逆の方向性のように感じられるのだ。
 こはぜ屋は今まで相手ありきの商売をしてきた。陸王の開発にしてもそうだ。茂木の要求にひとつひとつ答えて、ひとつのものを丁寧に作り上げていく。それはシューフィッター村野の仕事がそういうものだからかもしれない。でもその村野をアドバイザーとして実際に靴を作っているのはこはぜ屋なのだ。そして飯山の人情と責任感も、方向性は似ていると感じる。でも、フェリックスの場合は一緒に仕事をするという風には感じられない。利用できるものがあるから取り込む。そして、それはお互い様だろうという雰囲気があるのだ。シルクレイを使わせてもらうかわりに、設備投資の資金を用意する。さらに仕事をお願いすることもあるだろうし、マーケティング力、開発力だってあてにしていいという上から目線。助け合うというよりは、割り切った付き合いをしようというビジネスライクな考え方。こんな見方をしてしまうのは、買収に対していいイメージを持っていないからというだけなんだろうか。
 買収の件でグラグラ揺れている宮沢。茂木の応援に対する姿勢もぐらついていて、はっきり決められない自信のなさが見え隠れしている。そんな中、仕事に対するプライドが芽生えたからか目覚ましい成長をしているのが大地だ。メトロ電業の面接は最終にまで進み、アッパー素材の供給元もいい返事をしてくれる会社が出てきた。この先大地がどこに就職するのかも含め、展開が気になるところです。

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